ノートとAIを使って考える大学生と、原資料を確認する社会人

先日、卒論を書くという大学生に、AIの使い方を教える機会がありました。とても喜んでくれて、卒論にも使おうとしていたようです。
ところが、その後、大学からAIを使ってはいけないと言われたそうで、ショックを受けていました。

これは学生本人から聞いた話です。大学の規定や、どこまでの利用が禁止されているのかは確認できていません。
大学全体の方針なのか、授業や指導教員の指示なのかも分かりません。

それでも、この話は私の中に残りました。
AIを使えば、もっと深く調べたり、考えを整理したりできるかもしれない。
一方で、AIに任せることで失われる学びもあるのではないか。この問いは、企業のAI導入でも出てきます。

卒論は「良い文章ができた」で終わらない

正直に言えば、私は最初、使える道具を使わないのはもったいないと感じました。
すべてを丸投げするのではなく、AIと一緒に、より良いものを作る。そんな使い方もあるからです。

ただ、卒論で問われるのは、完成した文章の出来だけではないはずです。
自分で問いを立て、資料を読み、根拠を確かめ、考察する。
その過程で何を身につけたかも大切です。

読みやすい論文ができても、本人が内容を説明できなければ、学びの成果は見えにくくなります。
成果物の質と、本人の力が育ったことは、分けて考える必要があります。

だから、AIを使わずに取り組む場面を設ける考えも理解できます。
同時に、何を学ぶための制限なのかが分かると、学生も納得しやすくなるのではないでしょうか。

成果物の正確さ・分かりやすさと、本人が根拠を確かめ判断理由を説明する力を分けて見る図

「考えなくなるのでは」は、職場でも出てくる

以前、ある企業にAI導入の説明に伺ったときにも、職員が自分で考えなくなり、業務の質が下がるのではないか、という懸念が示されました。

この心配はよく分かります。
経験が少ないうちから答えだけを受け取っていると、どこが間違っているのか、何を確認すべきかを学ぶ機会が減るかもしれません。

一方で、人手が足りない中、効率化できる仕事に毎回同じ時間をかけ続けることにも、私はもったいなさを感じます。
その時間を、お客様への説明や、例外的なケースの検討に回せる可能性もあるからです。

AIを使えば必ず質が上がるとも、使えば必ず考えなくなるとも言い切れません。
どの仕事を任せ、どこで人が立ち止まるか。その設計が大事なのだと思います。

AIに任せる範囲と、人が担うことを決める

大学での利用方針も、一つではありません。
文部科学省は2023年7月の周知で、各大学・高専が教育の実態に応じて主体的に対応し、状況に応じて指針を見直すことが重要だとしています。(文部科学省の案内)

この案内が、個々の卒論でのAI利用を許可するわけではありません。
まずは所属先や担当教員のルールを確認することが前提です。

そのうえで、企業も含め、次のように使い方を具体化できると考えています。
これは私からの運用例で、実在する大学や企業の規定ではありません。

  • 資料整理や構成案:組織が認めた用途・環境の範囲でAIを使う。
  • 根拠・引用・数値:AIの回答で済ませず、人が原資料を確認する。
  • 判断や考察:本人が、なぜそう考えたかを説明できるようにする。
  • 最終承認:担当者や責任者が、提出・使用してよいかを判断する。
  • 利用の記録:必要に応じて、何にAIを使ったかを残す。

下書きなら何でも使ってよい、という意味ではありません。
個人情報や機密情報についても、組織が承認した環境と入力ルールに従う必要があります。

大学なら、利用過程の記録や出典確認に加え、本人に口頭で説明してもらう方法も考えられます。
それだけで能力を完全に測れるわけではありませんが、完成品だけを見るより、考えた過程を確かめる手がかりにはなると思います。

確認できる人を育てる時間も、仕事に組み込む

ここで忘れたくないのは、「最後は人が確認する」と決めるだけでは足りないことです。
確認するには、正しいかどうかを見分ける知識と経験が要ります。

たとえば新人には、まず自分で資料を読み、判断理由を書いてもらう。
その後でAIの案と比べ、違いを先輩と話す。
一方、経験者は資料整理をAIに任せ、その分、根拠の確認や難しい判断に時間を使う。
こうした使い分けが考えられます。

同じ作業でも、習得のために行うのか、実務を進めるために行うのかで、AIに任せる範囲を変えてよいはずです。

習得段階では自分で考えてAIと比較し、実務段階ではAIで整理して人が検証する運用例

ルールを守ることも大切です。
疑問があるなら、目的を確認し、必要に応じて正式に見直しを提案する。
黙って使う以外にも、できることがあります。

私は、AIで効率化しながら、人が考える力も育てたいと思っています。
そのためには、任せる仕事、本人が取り組む経験、判断を説明する場を、一緒に決める必要があります。

まずは自社の仕事を一つ選び、「AIで短縮したい部分」と「人が身につけておきたい力」を並べてみる。
そこから、現場に合うルールが見えてくるのではないでしょうか。

関連記事:AIで仕事が半分になったら?AI時代に考えたいジョブディスクリプションと仕事の再設計

次の一歩は、この3つから。

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この記事を書いた人

白石貴義
白石貴義合同会社GSK 代表
合同会社GSK代表。中小企業のためのAI業務設計パートナーとして、「ゼロを、1にする。」をコンセプトに、社内でAIが使われていない状態から、現場で使われる状態に変える支援をしています。ビジョンは「AIで仕事の抜け道を発見」。業務のヒアリングから設計、現場への定着まで、一緒に手を動かしながら伴走します。

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