
「AIって、嘘をつくんですよね」
企業の方とAI導入についてお話ししていると、こうした声をよく耳にします。
「聞いてみたら、間違ったことを自信満々に答えた」「教えてもらった情報を調べたら、そんなものは存在しなかった」。そんな経験があれば、仕事で使うことに不安を感じるのは自然です。
このような、AIがもっともらしい誤った情報を生成する現象を「ハルシネーション」と呼びます。[1]
ただ、私は「AIが嘘をつくから、使わない」で終わらせてしまうのは、もったいないと考えています。
大切なのは、AIがどのように回答を作っているのかを知り、何を任せ、どこを確認するかを決めることです。
この記事の要点
- ハルシネーションとは、AIがもっともらしい誤った情報を生成する現象です。人の「嘘」のように、だますつもりで起きるものではありません。
- AIは、文脈から続きの言葉を予測して文章を作ります。自然な文章であることと、内容が正しいことは別です。
- 仕事では、案を出す場面と事実を確定する場面を分け、金額・日付・条件・出典は元資料で確認します。自社資料を参照させるRAGも誤りを減らす選択肢ですが、確認はなくなりません。
ハルシネーションとは?AIの「間違い」と人の「嘘」の違い
人について「嘘をついた」と言うとき、相手をだますために、事実と違うことを意図的に伝える場面を思い浮かべるのではないでしょうか。
一方、AIのハルシネーションは、出てきた回答に誤った内容や裏付けのない内容が含まれる現象です。
その回答が間違っていたというだけで、人間のように「相手をだまそうとした」と捉える必要はありません。
もちろん、意図的な嘘と区別できても、誤回答による影響がなくなるわけではありません。
誤った金額を見積書に使ったり、存在しない資料を提案書の根拠にしたりすれば、仕事に支障が出ます。
だからこそ、「嘘つきかどうか」という見方から一歩進んで、誤りが起きる仕組みと対処を知っておきたいのです。
AIはなぜ間違える?ハルシネーションが起きる理由
私自身、以前は「AIは質問されるとインターネットで答えを探し、情報をまとめて返している」と思っていました。
実際には、検索を使う場合と、検索せずに回答する場合があります。
検索しない場合も、学習した内容をもとに文章を生成できます。[2]
ChatGPTなどの基盤となる大規模言語モデルは、大量のデータから学んだパターンや、入力された文脈を使い、続きに来る言葉の小さな単位を予測しながら文章を作ります。[1]
イメージしやすい例なら、「吾輩は」と聞いて「猫である」が続くようなものです。
ただし、実際には直前の一語だけでなく、質問や会話全体など、与えられた文脈を踏まえて生成しています。
ここで押さえたいのは、自然で説得力のある文章になっていることと、内容が事実として正しいことは別だという点です。
すらすら答えてくれたからといって、事実確認まで済んでいるとは限りません。
検索を使った場合も、参照した情報の正しさや読み取り方は確認が必要です。
もう一つ、OpenAIは、間違いが残りやすい理由として「分からない」と答えるより、推測して答えるほうが評価で得をしやすいことを挙げています。[1]
テストで、空欄にすれば0点でも、当てずっぽうで書けば当たるかもしれない。それと似た状況です。また、誕生日のように規則性がなく、めったに出てこない事実は、文章のパターンから予測しにくいとも説明しています。[1]
よくあるハルシネーションの例
OpenAIのヘルプでは、次のような誤りが挙げられています。[2]
- 定義や日付、事実の誤り
- 実在しない引用や論文、出典を示す
- あいまいな質問や複雑な質問に、自信ありげに言い切る
あわせて、学習した時点より後の出来事は、検索などの機能を使わない限り回答に含まれないことにも注意が必要です。[2]
仕事の場面に置き換えると、「法改正前の古い条件で説明する」「ありそうな名前の補助金や資料を挙げる」「計算の途中で数字がずれる」といった形で表れます。
ハルシネーションを防ぐには?「案を出す場面」と「事実を確定する場面」を分ける
では、間違える可能性があるAIを、どう仕事に使えばよいのでしょうか。
私は、まず「たたき台を作る場面」と「事実を確定する場面」を分けて考えると、使い方が整理しやすいと思います。
例えば、お客様に送るメールの表現を整える。会議の議題案を出す。
自分で書いた文章を、読みやすい順番に並べ直す。こうした作業なら、AIの提案を人が選び、手直しする形で役立てられます。
一方、取引先名、日付、金額、制度の条件、資料の出典など、正確さが必要な情報は、そのまま採用せず元資料で確認します。[2]
文章の整理や要約でも、内容が抜けたり、元資料にない説明が加わったりする可能性はあります。
用途に応じた確認は必要ですが、すべての仕事を同じ重さで確認する必要はありません。
例えば、社内会議の議題案なら担当者が目を通す。
お客様に渡す見積書なら、金額と条件を原本と照合する。
このように、誤りが起きたときの影響に合わせて確認方法を決めると、実務に取り入れやすくなります。
例えば、次のように整理できます。
| 仕事の例 | 誤ったときの影響 | 確認の仕方 |
|---|---|---|
| 会議の議題案・アイデア出し | 小さい(使わなければ済む) | 担当者が目を通して選ぶ |
| 社内向け文書の言い回し | 小さい〜中 | 意味が変わっていないかを読み直す |
| 議事録・資料の要約 | 中(抜けや付け足しが起きうる) | 決定事項・数字・担当者を元の記録と照合する |
| お客様へのメール・案内 | 中〜大 | 日付・金額・固有名詞を原本で確認してから送る |
| 見積書・契約・制度の条件 | 大 | 原本・公式情報と照合し、担当者が最終確認する |
AIにどこまで任せるかの線引きは、「Museに仕事を丸投げする前に知っておきたい3つの線引き」でも整理しています。

AIへの頼み方でできる工夫
確認の手間を減らすために、AIへの頼み方でもできることがあります。
- 分からないときは「分からない」と答えるよう頼む。OpenAIも、不確かな情報を自信ありげに出すより、不確かさを示したり質問を確かめたりするほうがよいとしています。[1]
- 根拠を示してもらい、自分で開いて確かめる。出典が付いていても、リンク先に本当にその内容が書かれているかは別に確認します。[2]
- 新しい情報や細かい情報は、検索機能を使う。検索を使うと、出典付きで回答できるようになります。[2]
- 計算は、計算・データ分析の機能や表計算ソフトで行う。[2]
- 元の資料を渡し、「この資料に書かれている範囲で答えて」と頼む。次に紹介するRAGを、手作業で小さく試すイメージです。
ただし、どの工夫も誤りをゼロにするものではありません。頼み方を工夫したうえで、影響の大きい情報は人が確認する。この組み合わせが現実的だと考えています。
RAGならハルシネーションはなくなる?「自社の資料を見ながら答えるAI」という選択肢
ここで、もう一つ考えてみてください。
一般的な知識だけで回答するのではなく、自社のマニュアルや商品資料、社内ルールを参照して答えてくれるAIなら、どうでしょうか。
例えば、社員が「この商品の対応範囲を教えて」と質問したとき、自社の商品資料の関連箇所を探し、その内容を根拠に回答する。こうした仕組みを作る方法の一つが、RAG(ラグ)です。
RAGは、質問に関連する資料を検索し、見つかった情報をAIに渡して、回答の根拠として使う仕組みです。[3]
会社独自の手順や、社内で蓄積してきたノウハウは、一般向けAIが最初から把握しているとは限りません。必要な資料を参照できるようにすることで、自社の仕事に即した回答を得やすくなります。
ただし、RAGを使っても、最後の回答文はAIが生成します。
「資料を参照するから、誤りがなくなる」というわけではありません。
関連資料を見つけられない場合や、見つけた内容を誤って解釈する場合もあります。[3]
そのため、資料を最新に保つこと、説明が食い違う古い資料を整理すること、実際の業務の質問で回答を確かめることも大切です。
社内の資料をAIに渡すときの情報の扱いは、「AIに社内情報を入れると漏えいする?学習オフとクラウドの違い」で解説しています。
自社専用AIは、資料を入れたら完成するものというより、使う資料と運用を整えながら育てていくものだと考えています。

自社の知識を活かすなら、AiAIも選択肢に
合同会社GSKで取り扱っている法人向けAIサービス「AiAI」も、自社の資料やナレッジを活用するRAGの仕組みを備えています。
「社内マニュアルを探す時間を減らしたい」「商品やサービスについて、社員が確認しやすい環境を作りたい」「担当者に集中している問い合わせを減らしたい」。
こうした課題に、自社の知識を活用するAIという選択肢があります。
大切なのは、AIに何でも任せることではなく、どの資料を使い、どの業務を助け、どこを人が確認するかを決めることです。
自社の資料を活用したAIに関心がある方は、合同会社GSKへご相談ください。
AiAIの活用も含め、まずはどの業務から取り入れられるか、一緒に整理していきましょう。
ハルシネーションについて、よくある質問
Q. ハルシネーションは、完全に防げますか?
現時点では、完全になくすのは難しいと考えておくのが安全です。OpenAIも、ハルシネーションはすべての言語モデルにとって根本的な課題だと説明しています。[1]
頼み方の工夫や自社資料の参照で減らしつつ、影響の大きい情報は人が確認する前提で使います。
Q. 検索機能を使えば、回答は正確になりますか?
新しい情報や出典付きの回答を得やすくなります。[2]
ただし、参照したページ自体が誤っている場合や、AIが内容を読み違える場合もあります。正確さが必要なときは、示されたリンクを開いて確かめます。
Q. どんな仕事なら、AIに任せやすいですか?
間違えても人が気づいて直せる仕事です。メールの言い回し、会議の議題案、文章の並べ替えなどは、AIの案を人が選んで手直しする形で使いやすい作業です。
金額・日付・取引先名・制度の条件など、誤りがそのまま損失につながる情報は、元資料での確認を前提にします。
Q. 社内の資料を読み込ませれば、間違えなくなりますか?
自社の手順や商品に沿った回答は得やすくなりますが、誤りがなくなるわけではありません。関連する資料を見つけられない場合や、内容を読み違える場合があります。[3]
資料を最新に保ち、古い資料を整理し、実際の業務の質問で回答を確かめながら育てていくことが大切です。
仕組みを知ることが、AIを使いこなす第一歩
AIは間違えることがあります。その前提は、仕事で使ううえで外せません。
でも、間違えるから使えないと決める前に、回答が作られる仕組みを知り、確認する場所を決める。
そのうえで、自社資料を参照させるなど、誤りを減らす工夫を取り入れていく。
私は、こうした付き合い方が、これからのAI活用で大切になると考えています。
「AIは嘘をつくのか」で立ち止まるより、「自分たちの仕事で、どう確かめながら活かすか」を考えていきませんか。
参考資料
- [1] OpenAI「言語モデルでハルシネーションがおきる理由」:https://openai.com/ja-JP/index/why-language-models-hallucinate/
- [2] OpenAI Help Center「Does ChatGPT tell the truth?」:https://help.openai.com/en/articles/8313428-does-chatgpt-tell-the-truth
- [3] Microsoft Learn「Retrieval augmented generation (RAG) and indexes」:https://learn.microsoft.com/en-us/azure/foundry/concepts/retrieval-augmented-generation
次の一歩は、この3つから。
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この記事を書いた人

- 合同会社GSK 代表
- 合同会社GSK代表。中小企業のためのAI業務設計パートナーとして、「ゼロを、1にする。」をコンセプトに、社内でAIが使われていない状態から、現場で使われる状態に変える支援をしています。ビジョンは「AIで仕事の抜け道を発見」。業務のヒアリングから設計、現場への定着まで、一緒に手を動かしながら伴走します。
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